【解決事例】遠方に住む長男からのご相談|実家売却に備えた家族信託と遺言の併用【宇部市の行政書士】

「関西に住んでいますが、宇部の実家に、90代の両親が二人で暮らしています。最近、父に軽い物忘れが増えてきて心配です。今のうちに、将来施設に入ることになったときのために、実家を売却して施設費用や生活費に充てられるようにしておきたいのですが」
このようなご相談を、県外にお住まいの長男様からいただきました。ご長女様も県外にお住まいで、お二人とも宇部のご実家からは離れて生活されています。ご相談は、当事務所のホームページをご覧になり、ご自身で「家族信託」という制度を調べられ、宇部市内で対応できる専門家を探してのお問い合わせでした。
この記事では、実際にご相談いただいた事例(内容は特定を避けるため一部変更しています)をもとに、家族信託と遺言を組み合わせて将来に備えたケースを、宇部市の行政書士が解説します。

ご相談内容
- ご両親は宇部市のご実家で、お二人暮らし
- ご両親は90代。お父様に軽度の物忘れ(認知機能の低下)が見られ始めていた
- お母様も同様にご高齢だが、現時点では認知面に問題はない
- ご実家は、お父様お一人の名義
- 預貯金は数百万円程度
- ご長男様・ご長女様(お姉様)は、お二人とも県外にお住まい。ご長女様はご相談に協力的
- ご相談のきっかけは、ご自身でインターネットで「家族信託」という制度を調べられたこと
長男様のご希望は明確でした。「両親が元気なうちに、将来施設に入ることになった場合に備えて、実家を売却できる仕組みを作っておきたい。ただ、認知症が進んでからでは遅い、というのを調べて知りました」
このケースの法的な問題点

このケースの背景には、多くの方が見落としがちな重要な問題があります。
認知症が進むと、実家は「売れなくなる」
不動産の売却は法律行為であり、判断能力(意思能力)がなければ有効に行うことができません。お父様やお母様が認知症などで判断能力を失ってしまうと、たとえご家族であっても、本人に代わって実家を売却することは原則としてできなくなります。このような場合の対応策として「成年後見制度」がありますが、次のような制約があります。
- 後見人の選任には、申立てから決定まで数か月かかることが多い
- 後見人が実家を売却するには、家庭裁判所の許可が必要
- 「売却の必要性」が認められなければ、許可が下りないこともある
- 後見人には専門職(弁護士・司法書士等)が選ばれることもあり、継続的に報酬が発生する
つまり、「認知症になってから何とかしよう」では、実家の売却が思うように進まない可能性が高いのです。だからこそ、判断能力がしっかりしている「今のうち」に備えておくことが重要になります。
当事務所がご提案した解決策
このケースでは、「家族信託」と「遺言」を組み合わせた解決策をご提案しました。
① なぜ信託だけでは不十分なのか
実は、家族信託を組んだからといって、それだけですべてが解決するわけではありません。家族信託の対象になるのは、契約で指定した信託財産(このケースでは主にご実家)だけです。信託に入れなかった財産(預貯金など)は、通常通り、相続が発生した際に「遺産分割協議」の対象になります。
このケースでは、次のような懸念がありました。お父様が先に亡くなった場合、信託財産以外の財産(預貯金など)については、相続人であるお母様・長男様・長女様で遺産分割協議を行う必要があります。お母様は現時点では認知面に問題はありませんが、ご高齢であることから、お父様の相続が発生する将来の時点までに判断能力が低下している可能性も考えられました。そうなると、遺産分割協議への参加自体が難しくなることが想定されます。
そこで、信託ではカバーしきれない財産についても、あらかじめ方針を決めておくため、お父様に遺言を作成いただき、信託を補完する形にしました。
家族信託は万能ではありません。「信託財産」と「信託に入れなかった財産」を分けて考え、後者については遺言で備えておくことが、実務上とても重要なポイントです。
② 受益者連続型信託の設計

今回組成した信託の内容は、次のとおりです。
このように、受益者が父から母へと引き継がれる「受益者連続型信託」を採用しました。これにより、お父様が亡くなった後も、信託契約を結び直すことなく、そのままお母様のための財産管理・実家の売却等を長男様が続けられる仕組みになっています。そして、ご両親がお二人とも亡くなられた時点で信託は終了し、残っている信託財産(残余財産)は、長男様が承継します。万が一、長男様が先に亡くなっていた場合に備え、予備的に長女様が承継する設計にしています。
| 役割 | 当初 | 父の死亡後 |
|---|---|---|
| 委託者 | 父 | (信託は継続) |
| 受託者 | 長男 | 長男(変更なし) |
| 受益者 | 父 | 母 |
③ 家族全員を巻き込んだプロセス
家族信託は、財産を託されない他のご家族(このケースでは長女様)から見ると、「自分は蚊帳の外に置かれた」と感じ、後々の関係悪化につながることがあります。そこで今回は、長女様にも早い段階からご参加いただきました。長男様が宇部に帰省された際の面談に、長女様も同席。公正証書作成のため公証役場に伺った際も、長女様が付き添いました。
財産管理を長男様に託す内容であっても、長女様がその経緯と内容を十分に理解し、納得された上で進めることができました。これにより、将来「知らなかった」「聞いていない」といったトラブルを防ぐことができます。
当事務所が実施したサポート内容
STEP1 WEBでの初回面談
県外にお住まいのため、まずはオンラインでの面談からスタート。ご相談内容の整理と、家族信託・遺言・成年後見それぞれのメリット・デメリットをご説明しました。
STEP2 事務所での面談・文案確認
長男様が宇部にご帰省されたタイミングで、当事務所にて対面での打ち合わせ。信託契約書・遺言の一次文案をご確認いただき、修正点を反映しました。
STEP3 信託口座開設のサポート
信託財産(金銭)を管理するための専用口座の開設について、金融機関とのやり取りをサポートしました。
STEP4 公証役場との調整・日程予約
信託契約・遺言それぞれの公正証書化に向けて、公証人との内容のすり合わせと日程調整を行いました。
STEP5 ご両親のご自宅への訪問(公証役場作成の前日)
基本的な窓口は長男様でしたが、契約の当事者はあくまでご両親お二人です。公証役場での作成前日、当事務所からご両親のご自宅へ直接訪問し、契約内容についてお二人に直接ご説明しました。
STEP6 公正証書による契約締結
公証役場にて、信託契約書・遺言をそれぞれ公正証書として作成しました。証人は、当事務所の代表行政書士と相続部門担当スタッフの2名が務めました。
STEP7 信託業務ガイドブックの作成・お渡し
契約後、長男様が受託者として日々の信託事務を適切に行えるよう、当事務所オリジナルの「信託業務ガイドブック」を作成し、お渡ししました。
ご相談開始から公正証書作成まで、約3か月でした。遠方にお住まいの場合でも、オンライン面談と、要所での対面(帰省のタイミング・当事務所からの訪問)を組み合わせることで、無理なく進めることができます。
家族信託には信託登記が必要です。信託登記により、法律上の所有権を委託者から受託者へ名義変更します。今回、信託登記は当事務所が提携する司法書士事務所へお願いしました。
このケースから学べること
今回のケースは、次のいずれかに当てはまる方に、特に参考にしていただける事例です。
- 遠方に住んでいて、実家の親の将来が心配
- 親が高齢で、認知症の兆候が少しでも見え始めている
- 将来、実家を売却して施設費用や生活費に充てる可能性がある
- きょうだいが複数おり、財産管理を巡る不公平感やトラブルを避けたい
- 「信託さえ組めば全部解決する」と誤解している
特に重要なのは、「信託財産」と「それ以外の財産」を分けて考え、両方に手当てをしておくという視点です。家族信託は非常に有効な手段ですが、万能ではありません。信託と遺言、それぞれの役割を理解した上で組み合わせることで、より確実な備えになります。
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今回は「実家の売却」を主目的とした家族信託の事例でしたが、家族信託は認知症対策・相続対策として幅広く活用できます。ご自身の状況にどう当てはまるか、詳しくは無料相談でご確認ください。
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